昨日 あなたが眠りにつく前に、私は国境へと送り出されていた
けれども眼の前に横たわっていたのは、それとは異なるまたひとつの亡国だった
国境線の外側で私を待っていたのは、灰色い顔をした死の天使ですらなかった
そこでは沈黙と不在とが、鉄条網のようにして僕たちを距て分けていた
線痕から引き延ばされた樹脂が、手紙に蝋の封するようにして
あなたの眼の周りを固く閉ざしていた
永遠を眼にすることのない事実が、安らぎであるとさえ思えるほどに
芽吹く 季節にあなたはいった。何も持たず、ただ
私の立っている場所を唯一の目印として 何も残さずに
そしてそこに書かれるべき形象は何ひとつ存在していない
哀しみ それが私だけのものであることを、他の人達は忘れているから
かつて 私達が歩いていた生垣の道には見知らぬ兵士 こちらを見つめていて
たえず 私に向かって請求し続けている―――通行許可書を
あなたの生は、もう可名性のもとに存在していない
それは束ねられた花々の下にうずくまっている
そしてあなたは時々私の所にやってきて、
まだ私の知らない木々の名前を教えてくれるのだろう
あなたの死に先立つ前に、私が見たことのない人達が 縦軸にひかれた声と
横軸につたわった涙によって、さほど取り集めのないイマージュに絡みとられていた
「食料はまだ届いていません。」
「私達は銃など持っていません。」
「弾はとっくに切れてしまいました。」
「明日には此処を出てゆかなければなりません。」
「でも、私達にはその理由が無いのです。」
私が国境線に待っていたのは、彼らのためでさえなかった
彼らは葬儀に間に合うべきだったのだ たとえ周りの木陰もろとも、焼き払ってさえ
こうしてあなたのしわがれた手を握っている私は 蔦の絡み合うようにして
鉄格子にしがみ付いている いつかの風景のまま、子供のように
そこでは沈黙と不在とが、鉄条網のようにして僕たちを距て分けていた
その隙間から眼差しは遠く及びもしなかった すでにあなたが眠りについてしまった後では
私が通行許可書をもっていたことさえ あなたに欺かれることなしに
哀しみ と、イマージュさえも何ひとつ残さぬよう固く、それは閉じられたまま
私の向けられた国境には、あなたに手向けられた花々もまた、何ひとつ存在していない
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